大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和57年(ラ)14号 決定

抗告人

合同青果株式会社

代理人

竹田浩二

外一名

主文

原決定を取消す。

本件を広島地方裁判所尾道支部へ差戻す。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

記録によると、広島県中央信用組合は広畑人士に対する別紙添付の物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)に対する根抵当権(債務者広畑家具有限会社昭和五一年一〇月一五日設定、同月一六日受付第一三九六七号による同設定登記)に基づき、被担保債権二五六六万五〇〇〇円(但し損害金を除く。)について担保権の実行としての競売を申立て、昭和五六年五月二六日広島地方裁判所尾道支部において本件各土地に対し不動産競売開始決定(同月二七日各差押登記)がなされたこと、右担保権に優先する根抵当権が別紙根抵当権一覧表のとおり登記簿上存在し、その届出債権は同表に記載のとおりであるほか、広島県信用保証協会が昭和五〇年四月二八日受付第五五八八号根抵当権を除くその余の根抵当権について、届出をした債権は合計して三一二九万六五一二円(但し元本額のみ。)であることが認められる。

これによると同一覧表番号1、20、31、38、47、50、56、57、60、61の土地については広島県中央信用組合の届出債権一六五〇万円が、その余の土地については広島県信用保証協会の届出債権三一二九万六五一二円が優先債権であることは明らかである。

しかして、前記開始決定にかかる競売手続において、期日入札の公告に公示された最低売却価額は、別紙目録番号45の土地(地目田、現況原野)が六万六〇〇〇円とされ、その余の各土地(番号1は地目山林、その他は地目畑で現況いずれも原野)については、一括競売に付された結果全体として一〇八九万八〇〇〇円とされていたことが明らかである。

そうすると、右最低売却価額をもつて、前記優先債権を弁済して剰余を生ずる見込みのないことは明白であるから、執行裁判所は民事執行法一八八条、六三条によりその旨を右申立債権者に通知する手続をとらねばならなかつたものである。なお、前記一六五〇万円の優先債権の権利者と本件競売申立債権者とは同一であるが、この点は同法六三条の適用の有無を判断するに当つて考慮するを要しないものと解するのが相当である。

しかしながら、民事執行法一八八条の準用する同法六三条は優先債権者の保護を目的とした規定であるから、同条に定める手続が行なわれないまま競売手続が進行し、売却許可決定に至つたとき、これによつて権利を害されるのは優先債権者であり、所有者、債務者は何らその権利を害されるものではない。そして同法七四条一項によれば、売却許可決定に対しては同決定により自己の権利が害されることを主張するときに限り執行抗告をすることができるのであるから、六三条違反を看過した売却許可決定に対し所有者、債務者がそれを理由に執行抗告をすることは許されないと解するのが相当であり、従つて優先債権者からの不服申立がなされないのに六三条違反を理由に売却許可決定を取消すことはできないというべきである。

してみれば原審が債務者のした執行抗告の当否を判断するに当り、職権で民事執行法六三条違反の点を取上げ、売却許可決定を取消したのは違法といわなければならない。

よつて同取消決定に対する本件執行抗告は結局理由があるというべきであるから、同決定を取消して本件を原裁判所へ差戻すこととし、主文のとおり決定する。

(福間佐昭 大西浅雄 中村行雄)

(抗告の趣旨)

原決定を取消す。

(抗告の理由)

一 原決定は、末尾記載の物件目録に対する抗告人への売却許可決定を、民事執行法六三条所定の手続の欠缺を理由に取消した。右手続の要否は、競売申立債権者の被担保債権のうち最も優先するものを基礎として考えるべきであるのに、原決定は、本件競売申立債権者広島県中央信用組合の二口の債権のうちその後順位の被担保債権を基礎としたうえ同組合の他の先順位の被担保債権一六五〇万円(利息、損害金を除く。)を認定しており、しかもこれと広島県信用保証協会の被担保債権三一二九万六五一二円(利息、損害金を除く。)との優劣関係の認定を欠く誤りを犯している。

二 剰余を生ずる見込みの有無の判定については最低売却価額が基準となるところ、原決定にはその額について何ら摘示していない違法がある。

三 原決定は、本件六三筆の土地全体を単一視しているが、いかに共同抵当にかかる物件であつても同法六三条の手続の要否は、各不動産毎に個別に検討されるべきである。前記広島県中央信用組合が最先順位(一、二番)の根抵当権を有する物件についてまで、他の同組合より先順位の前記協会の被担保債権の存在をもつて、同法六三条の手続違背を問疑した原決定はその限りでも違法である。

四 同法六三条の手続は、債務者保護のために設けられたものであるところ、本件では債務者広畑家具有限会社はその執行抗告の理由において、右手続不履行の点を全然主張しておらず、このことは同社が同条による保護を放棄したものと考えるべきである。原決定は職権でこの点の判断に及んでいるが当事者(債務者)の意思を無視した違法を犯したものである。

五 以上のとおり、原決定には事実誤認及び法令違背があるので、その取消を求める。

物権目録〈省略〉

根抵当権一覧表〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例